スランプの正体(今日のおかず「Sigur Ros」)

 別に今自分がそうというわけではないんですが、スランプってありますよね。物作りだったり、スポーツだったり。スポーツに関してはわかりませんが、物作りに関しては、人の評価が増えてくる時期に起こりやすいのではないかと思います。

 それまでは自分の感覚、感性を信じて作ってきたものに、知名度が上がるにしたがって、他者が良いと悪いとか評価をし始めるわけです。もちろんそれまでも評価は下されていたのでしょうが、新たに「全く未知の他人からの評価」や「評価する人の中にある、評価対象者の理想像」等に触れるようになります。それらの人にとっては、評価対象者の「作品」が先にあって、「人物」が後にくるわけです。本当はその「人物」が「作品」を作り出すんですが、この場合、「作品のイメージに相応しい人物」であることを無意識に求めてしまいます。そして評価対象者はそれを敏感に感じ取ります。

 人間誰しも、他人の期待には応えたいし、がっかりされたくありません。「あの時あなたはこう考えていたに違いない!」等と言われて、全く違ったり、覚えていなくても「あぁ、そうだったかも」と、適当に受け答えをしたり、或いは本当にそうだったと思い込んでしまうかもしれません。また、その理想像とのギャップを自分の中で感じ取り、辛い思いをすることもあるでしょう。そしてそれらを例え意識していないつもりでも、それらが精神に大きく揺さぶりをかけ、自分の感覚、感性、してきたこと、すべきことがわからなくなってしまう状況に陥ってしまうのではないでしょうか。

 同時に、批評と向き合わなければならない時期とも重なるでしょう。自分の作品に対して、ここが間違いだ、こうすべき、ああすべきと言われるのはもちろん辛いですが、それらが自分の中でも納得できたり、自分自身でも気づけていたことなら、成長につなげるための踏ん張りどころでしょう。しかし、自分の中で全く同意、納得できないことを言われたらどうでしょうか。その意見を取り入れても、何も良い事が起こらないのではないかと思えるようなことを言われたらどうでしょうか。もしそれが正しいとするなら、今まで作ってきたものは何だったのか。或いは、納得できないながらそれを採用しても、その後作り出すものは、自分が作ったものと言えるのか、製作者が自分である必要性があるのか。様々な葛藤や迷いが出てくると思います。

 さてこれらが同じ時期にくるとすれば、かなり辛い時期になります。自分がやることなすこと全てが疑わしくなり、自己を見失いやすくなります。「自分が自分である」という、言葉にする意味もなさそうなくらい当たり前の感覚が、ぐらついてきます。さすがにここまで来ると作品云々のレベルではなくなってきますが、その程度の強弱の中に、スランプが潜んでいるのではないかと思います。もっとも、他にも色んな複合的要因があるのでしょうけど。また、スランプを超えたら一皮向けたり、成長したりしそうなものですが、必ずしもそうとは思いません。もちろん、自分の作品を否応無しに客観的に見直す時期になるわけですから、そういう場合も多いのでしょうけど、その作品の分野や内容によっては、言わば「純度」のようなものが薄れてしまう場合もあると思います。

 ところで、僕は曲作りに関してスランプを経験したことがありません。というよりも、そもそも常時スランプと言った方が近いかもしれません。とても難産ですし、出来たところで半分以上は納得できずにボツになります。karteで演奏している既存の曲の中には、僕自身好きでなかったり、内容に納得できていない曲もいくつかあります(どの曲かは絶対に書きませんが)。もちろんどの曲も大切に想ってはいますが、いつも「本当にこれでいいのだろうか」と不安を感じながら練習、ライブに臨みます。しかし、既に曲として完成している以上、それはkarteの一部であり、ある意味では僕の手を離れています。言わば、僕自身の中でのkarteのイメージにマッチしていれば良いわけです。karteは僕の一部にしか過ぎませんが、僕もkarteの一部にしか過ぎないという、なんとも不思議な感じです。また、僕の場合は迷いや葛藤が曲作りの原動力になっているので、安定して不安定な状態が最も適しています。とはいえ、それも過ぎると曲作りどころではなくなってしまうので、スランプ云々以前の問題になってきます。もしかすると、スランプ中はそもそも曲作りを出来ない時期と重なる為、気づいていないだけなのかもしれませんね。

 

 

Sigur Ros



立山

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コメント: 2
  • #1

    orange (木曜日, 02 4月 2015 16:24)

    逆に、「これは…!」と、とても納得できた曲を挙げるとしたら、何かありますか?

  • #2

    立山 (火曜日, 26 5月 2015 13:55)

    >orangeさん
    それも書きません(笑)